ニューズレター

倫理委員会報告

倫理委員会 委員長 桃井保子

 最近、身近なところで、医療と倫理について考えさせられました。学生が、臨床実習直前に行う予備実習です。30年前、5年生になった私は、ポリクリとよばれる臨床予備実習を行いましたが、そこでは、出席番号が隣の学友の口腔内で当たり前のように浸潤麻酔と下顎孔伝達麻酔の練習をし、また、何の疑いもなく健全歯を切削してアマルガム充填させてもらいました。当時、先輩達から、自分たちは顔面の眼窩下孔伝達麻酔さえ相互に実習したと聞かされ、とくに驚きもしなかったことを覚えています。その当時、「これから、患者さんを治療させていただく一人前の歯医者になる前に、まず、身をもって侵襲を経験するのは当たり前」とだれもが考えていました。今もって、私には、これが倫理感の欠如していた時代の教育と判断する気持ちになれません。ある種、牧歌的な時代にあって、良質な教育であったと感ずるのです。しかし、今の時代にこれは通用しません。「本人の承諾なしには、たとえ学生であっても侵襲を与えることは許されない」し、「治療の必要ない歯を切削するのは倫理に反する」と考える時代です。実習のために学生が集めた抜去歯さえも、人の臓器として、尊重した扱いが求められ、臨床研究などは、各研究機関内の倫理審査なしにスタートできない世の中です。卑近な例を挙げましたが、医療における倫理感は確実に変化してきており、私達に遅滞なく意識改革するよう求めてきています。「人の福利に関する配慮は、科学や社会的利益より優先されなければならない」この考えが現場に浸透してきているのです。
 本会が、今回倫理委員会を新設したことは、こういった意味で、待ったなしの施策であったと思います。疾病を持たない健康な人をも対象とする審美歯科は、医療から逸脱しているとの見方が強く、常に国民の厳しい目にさらされているといっても過言ではありません。今後、増え続けるであろう会員に倫理的指針を示し、会員の全てがこれを遵守する姿勢を国民にアピールすることが、本会の社会的評価を高めると考えます。学際的に多元的な視点から、つねに公正かつ中立的な意見を発する委員会としてありたいと願っています。


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